
「引退後、ある人は優雅に齢を重ねるが、
他方、急に老け込む人もいる。
何がそうさせるのだろうか?」
その問いにインド人医学者ヴィタル・シン女史が答えています。最も確実に急速な衰えを招く方法は、社会が勧める通りに「退職を永遠のバケーション」として扱うことである。
突然、生活の仕組み・目的・社会的交流が失われると、多くの高齢者にとって身体的・認知的な衰えを早める“加速剤”のように働く。一方、この移行をうまく乗り越える人は、その後も何十年も活力を保つ。最大の違いは、「目的の喪失」をどう扱うかである。何十年もの間、仕事はアイデンティティと、朝起きて活動する理由をもたらしてくれた。心理学者は、この突然の構造の喪失を「役割なき役割(roleless role)」と呼ぶ。急に老け込む引退者はこの受動的マインドセット(物事の捉え方)を抱きがちで、テレビに支配された座りっぱなしの生活スタイルに陥るのである。逆に、うまく年齢を重ねる人は、仕事に代わる新しい“生きがい”を見つける。趣味、ボランティア、学び直しなどに、かつて仕事に注いだのと同じ熱意を向けるのである。
( 鈴木注:「役割なき役割 とは「役割がない」という状態そのものがその人の新しい「役割(立場)」になってしまっているという、皮肉や形容矛盾を含んだ表現)
社会的孤立も大きな要因である。職場では、毎日さまざまな人と強制的に関わることになる。それが消えると、社会的なつながりは急速に縮小する。慢性的な孤独は単なる抑うつを引き起こすだけではなく、生理的なストレス反応を誘発し、認知症、心臓病、脳卒中のリスクを高める。退職後も元気に過ごす人は、クラブ、講座、地域活動などを通じて積極的に新しい人間関係を築き、「自分が顔を出すことを期待される環境」を自ら作り出す。
最後に、身体的・認知的な停滞は老化を加速させる。通勤やオフィス内の移動といった“ついでの運動”がなくなると、日々の活動量は大きく低下する。これは加齢性筋肉減少(サルコペニア)や関節のこわばりを進める。脳も同じく「使わなければ衰える」原理で動いている。テレビ視聴のような受動的な活動では認知予備脳は築けない。退職後も頭の冴えを保つ人は、新しい言語の習得、木工、楽器の習得など、複雑で新しい問題解決に脳を使い続けている。
(鈴木注:認知予備脳とは、脳に加齢や病気によるダメージが生じても、認知機能の低下を抑えて正常に保つ個人の潜在的能力や仕組みのこと)
(感想)私は「引退後、優雅に齢を重ねている」とはとても言い難いが、急速な老化に歯止めをかけるささやかな努力はしている。テニスやソフトボール仲間との付き合いは大事にしたい。また、地域社会との交流を図るため、昨夕は石神井公園稲荷神社社務所で開かれた宴に参加し、地元の方たちと楽しい歓談のひと時をエンジョイした。そんな努力を後押ししてくれそうなヴィタル・シン女史の解説である。(ちなみに筆者は写真の右から二人目=鈴木武彦さん)
*出典は、鈴木さんが所属する米国の討論サイトのQuora。論者は医学者ブィタル・シン女史。鈴木さんのオリジナルな翻訳です。(What makes some people age gracefully.pdf)